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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)346号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。

成立に争いのない甲第二号証、第六号証、第七号証の二、第一〇号証の二、第一三号証、第一四号証を総合すると、次の事実が認められる。

すなわち本願発明は塩化ビニールの懸濁重合にあたり、従来公知の懸濁剤使用による欠点を除去し、品質の向上達成を目的とするものであつて、懸濁剤として使用するポリビニルアルコール(PVA)のケン化度と二〇℃における四%水溶液のヘプラー粘度及び使用割合を数値範囲で特定すること、特にPVAのケン化度と粘度の特定が構成要件の骨子であり、発明の特徴となつている。そして本願発明では、右の条件内では、得られる重合体は透明粒子が全くなく、特に可塑剤量が多い分野に使用した場合には可塑剤の吸収が均一かつ速やかであり、加工上多量の可塑剤を吸収し終るまでの時間が短縮され、またゲル化が速いため作業能率が著しく向上すると共に、均一な製品が得られる等の利点があるものである。

ところで昭和四九年九月二八日付手続補正書による本件補正は、右構成要件の骨子のうち公告時の「ケン化度七〇~八〇%」を「ケン化度七〇・〇~七八・〇%」に、「粘度五~三〇CPS」を「粘度五・〇~二七・〇CPS」と更に限定するものであるが、その限定の範囲に相当する出願公告時における明細書の第一表の実験番号3及び本件補正によつて追加された実験番号5、6、並びに昭和五六年一〇月二一日付実験報告書(甲第一四号証)に記載の追試された実験番号2の各実施例を検討してみると、いずれも可塑剤吸収性、ゲル化性からみてその作用効果は、出願公告時の明細書に従来例として記載されている第一表の実験番号1、2及び引用例の「PVA―420」の範囲にある出願公告時の明細書第一表実験番号4及び昭和五六年一〇月二一日付実験報告書に記載されている実験番号1の実験結果に比較して優れたものであるということができる。

そうして補正後の発明の目的は、補正前の発明と全く同一であつて、新たな技術的目的、効果は何ら加えられていないし、発明の特徴であるPVAのケン化度と粘度の数値的特定としても、補正前の数値的特定の範囲内において更にこれを限定し、効果をより明確にしたものとみるべきであるから、特許請求の範囲の減縮といわねばならず、技術的思想を実質的に変更するものには当らない。そして本件補正によつて追加された実施例も前記のように発明の目的とする効果をより明確にしたに過ぎない。

したがつて、本件補正を実質上特許請求の範囲を変更するものとして却下した決定は判断を誤つたものであり、違法であつて取消すべきものであるから、本願発明の要旨は昭和四九年九月二八日付手続補正書の特許請求の範囲の記載によつて認定されるべきであつて、結局、審決は要旨認定を誤つたものといわねばならず、この点で審決は違法であり、取消されねばならない。

三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註〕 本願発明に関する事項は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四五年七月二九日名称を「塩化ビニル樹脂の製造方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和四五年特許願第六六四三二号)し、昭和四九年一月一八日に特公昭四九―二〇二四号として特許出願公告されたところ、これに対してクラレ株式会社他六名から特許異議の申立がされたので、原告は、同年九月二八日、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載についての手続補正書を提出(以下「本件補正」ともいう。)したが、昭和五二年三月二日、特許異議の決定と共に本件補正を却下する旨の決定(以下「原決定」ともいう。)及び拒絶査定がされた。

そこで、原告は、昭和五二年九月二六日審判を請求し、昭和五二年審判第一二六九九号事件として審理されたが、昭和五五年一〇月七日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年一〇月一八日原告に送達された。

二 本願発明の要旨

1 補正後

塩化ビニルを水性分散媒体中で懸濁重合するに際し、懸濁剤としてケン化度七〇・〇~七八・〇%及び二〇℃における四%水溶液のヘプラー粘度が五・〇~二七・〇CPSのポリビニルアルコールを塩化ビニルに対し〇・〇一~一・〇wt%使用することを特徴とする軟質用塩化ビニル樹脂の製造方法。

2 補正前

塩化ビニルを水性分散媒体中で懸濁重合するに際し、懸濁剤としてケン化度七〇~八〇%及び二〇℃における四%水溶液のヘプラー粘度が五~三〇CPSのポリビニルアルコールを塩化ビニルに対し〇・〇一~一・〇wt%使用することを特徴とする軟質用塩化ビニル樹脂の製造方法。

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